ヒキガエル本16―金沢城のヒキガエル

平凡社ライブラリー (564)
奥野 良之助/著
平凡社 2006年 328P HL判
1995年にどうぶつ社から発行された本の復刊です。1970年代に金沢城址で行われたヒキガエルの研究を紹介すると共に、学園闘争が続く当時の大学の様子、のんびりしたヒキガエルを引き合いに競争社会への批判などが綴られます。ユーモラスな文章に、ひねくれ者で一言多いという著者の性格が表れています。
金沢はアズマヒキの生息域ですが、実験用カエルが逃げて住み着いていたらしく、城内にいたのはニホンヒキ。9年間に及ぶ調査は、捕まえて片っ端から標識して、個体毎の行動や成長の仕方、寿命などを調べるというもの。ただし著者は生物学者なのに昆虫嫌いで(笑)、ヒキガエルの食性は調べてません。
調査で明らかになったのは、序章にある通り「おおらかで優雅なヒキガエルの世界」。冬眠から覚めて数日繁殖行動したら春眠・暑くなれば夏眠と一年中寝てばかり、普段の生活も「雨食晴眠」それも腹具合によっては雨でも出てこない、採食の年間労働時間たったの55時間という働きぶりです。ちゃんと地面に潜らないで直接雪に埋もれて冬眠していた、いい加減さにはびっくり!
最長寿者はメス9歳・オス11歳超で、成熟まで達した者の平均寿命はメス6歳・オス7歳だったそう。野生にしては結構長生きですね。
そして左後脚のない雄カエル(13X0)との出逢い。初めて見た時は1歳半、それから7年間も元気に生き延び、繁殖にも参加し、一度はメスと包接に成功しているのを観察します。彼は怠惰なヒキガエルとしては「例外的に勤勉なカエル」だったそうです。外敵が多い地域であればむしろマイナスになったかもしれない彼の個性が、外界から隔離された城内の環境とたまたまマッチしたのでしょうね。
彼のような弱者でも生きていける、なわばりも順位もないヒキガエルの社会に著者は深く感銘を受けます。生物の世界は弱肉強食とか自然淘汰とか生存競争とかばかりではない、ということ。それなのに自分たちが競争に勝ち抜いてきた研究者達はすぐに競争原理を持ち出してくる、といった批判部分はちょっと強引な気がしますが……。
この本の図表や資料の素になった『ニホンヒキガエルBufo japonicus japonicusの自然誌的研究』という一連の論文は、CiNiiで無料公開されています。論文にしては一般人でも結構読みやすいです。時折ずいぶん主観的な表現が混じってたりもして苦笑します。
文庫版では旧版にあったイラストが省略されており残念に思っていましたが、イラストレータの樽本龍三郎氏がご自分のブログで公開されているのを発見。何とも味があって素敵な絵です。
※平凡社より表紙画像をご提供いただきました。
この本、帯があるのとないのでは、ずいぶん雰囲気違いますね。
ヒキガエルの研究について書かれた本としては、以前紹介した「カエルの鼻」と共に定番中の定番です。ヒキガエル好きなら必読!